専門家に聞きました

ニオイにまつわる様々な疑問や対処法などを専門家の方々に聞いてみました。

Interview 05

皮膚ガスで体のニオイ(体臭)を研究する

関根嘉香教授インタビュー

関根教授へのインタビューから、人は誰でも皮膚からガスを発していること、その「皮膚ガス」が体のにおい(体臭)と関係していることが分かりました。

においのもと!?「皮膚ガス」とは何でしょうか?
人は誰でも、皮膚ガスと呼ばれるガスを発しているそうですが、それは一体どのようなものでしょうか?

皮膚ガスとは、人の体の表面から放散される微量のガスの総称のことです。放散経路は3種類に分けられます。(図1)

血液由来
血液の中を流れている成分が揮発して出てくるガス。お酒を飲んだときに生じるアルコールを分解するアセトアルデヒド、体が疲れているときに生じるアンモニアなどもこちらに分類されます。

皮膚腺由来
皮膚内部の汗腺や脂腺から生じるガス。汗に含まれる酢酸、いわゆるすっぱいにおいはこちらが原因になります。一部アンモニア、皮脂成分も含まれますが、そこに常在菌や過酸化物が介在しないのが特徴です。

表面反応由来
皮膚の表面から生じるガス。皮膚上の常在菌が汗中の乳酸を代謝することよって発生するジアセチル、皮膚の表面に出てきた皮脂と過酸化物が反応して発生する2‐ノネナールなど、中高年の不快なにおいの原因となる物質もこちらに含まれます。

これらのガスにはそれぞれにおいの特徴があります。そのため、その人がどんなにおいを放出しているかを測定することで、健康状態を調べることができるのです。

どんな検査方法によって測定できるのでしょうか?

パッシブ・フラックス・サンプラー(PFS)と呼ばれる小型のデバイスを使用します(写真)。小さな紙片のような補集材を30~1時間程度皮膚につけて、微量な皮膚ガスを採取。その後測定機にかけて分析します。PFSでの採取は誰でも簡単にできるので、自分で採取してもらうことも可能です。

PFSでは、「ミドル脂臭」の原因となるジアセチルも採取できるそうですね。ジアセチルについて、先生の研究から分かったことはありますか?

30~40代の男性から特に多く出ています!
PFS で20~59歳の男女のジアセチルを捕集したところ、30~40代の男性のジアセチル放散量は圧倒的に多く、量は少ないものの女性からも捕集されたことが分かりました。(図2)

においやすい距離は25㎝圏内
一般的なオフィスで空気中のジアセチル濃度を推定したところ、隣人のジアセチルがにおう距離は25㎝。つまり、人同士の距離が25㎝離れていればにおいを感じないでしょう。但しこれは換気がいいオフィスでの例。空気のこもった寝室などでは、その3倍近くのにおいを感じることが分かりました。

においが集まりやすいのは頭上
人間の体は発熱体。体の周りで上昇気流が起きています。ただでさえジアセチルは首や頭部の発生が多い上、上昇気流に乗ってにおいは頭の上のほうに行きやすくなります。そのため、ジアセチル臭も頭の上周辺で感じやすいのです。

木曜日がにおいのピーク!?
1週間を通じて、曜日別、日中or夜間別にジアセチルの量を測定したところ、ジアセチル量は昼間より夜間のほうが多く、曜日別に見ても日によって量の変動は大きく、この週は木曜日、日曜日の夜などに多く捕集されました。(図3)

日内でも激しく変動
ジアセチルは1日の変動を見ても、著しく増減することが分かりました。なかでも食事時は、においのもととなる汗が多く分泌されるためか、ジアセチルの値が特に上昇しました。(図4)

ジアセチルのにおいを抑えるための対策を教えて下さい。

先述の通り、ジアセチルは表面反応由来の皮膚ガスで、汗中の乳酸が皮膚常在菌に代謝されることによって出てくる成分です。さらに皮脂と混ざることで、不快なにおい「ミドル脂臭」を発します。
そのため、においのもととなる、皮膚表面の汗と皮脂を取り除くことがジアセチルを低減させる近道です。汗をこまめに拭き、入浴時は体をよく洗い、清潔に保ちましょう。皮脂をゴシゴシとこすりすぎると、かえって皮脂の分泌が活発になるため、強くこすりすぎないことが要注意です。

今後の研究の展望は?

PFSで個人個人の皮膚ガス(体臭)を測定、分析すると、個人間で皮膚ガスの種類や量が大きく異なることが分かります。今後、においデータを使って、指紋認証ならぬにおい認証で個人の健康診断・健康管理を実現したいと思います。

関根 嘉香

東海大学理学部化学科教授
慶応義塾大学大学院非常勤講師

1966年生まれ。慶應義塾大学大学院理工学研究科応用化学専攻修了。室内環境学会理事長。アジアの大気環境に関する学際的研究、室内空気汚染(シックハウス症候群)の予防・改善に関する研究に取り組む中で、人の体から発せられる皮膚ガスのにおいに着目。その分析と情報伝達機能に関する研究等に従事している。